小耳



「11月に入るんですよ。僕、モノを見ないで契約しちゃいましたもん」
「あ、そう。11月のいつ頃?」
「末ですね。まだ、日本には全然入ってきてないんです」
「うん、うん」
「今ならこれですね。グァテマラのサンタクルス農園の。小さい農園なんで、うちに入ってくるのは50袋のうちの1袋の、その半分くらいで」
「グァテマラね」
「はい。透明感があって、後味がしみ渡って。粗挽きでね」
「じゃ、それ」
「はい。あと300ですから。あぁ、328ありますんで、差し上げます。中途半端に残してもあれですから」
「ありがとう」
「それから、今日のストレートコーヒー、パンテ○×※...の....なんで、どうぞ」


喫茶コーナーも併設している珈琲豆店で聞こえてきた、常連らしい客と店員の会話。
最後の方は、もうなんだか分からなかった。
あと、11月末に入るはずの、すごいやつの名前も。

 

  越後妻有ツアー2009

3泊4日の、大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2009ツアー。
今年はハイエースを借り切って、集団でわいわい話しながら遠足のような雰囲気でした。




ストーム・ルーム(ジャネット・カーディフ&ジョージ・ビュレス・ミラー)
見知らぬ人同士がひとところに身を寄せてしまうような状況を、雨というありふれた道具立てでつくりだす。
しかも、外と内の鮮やかな場面転換で、爽やかな後味。
個人的には、今年のベストかも。




建具ノニワ(山本想太郎)
建築系の作家は、空間よりも状況とかコミュニケーションとかを意識しすぎてしまうように感じたけれど(自省も込めて)、
これはむしろ、空間そのものをつくり出すことに集中したストイックな作品。




鉄を作る(小沢敦志)
集落で収集した鉄製品を熱して叩いてぺらぺらにする。
顔のような、魚のような、草のような。
展示場所や照明がもう少し工夫されていれば。




かき氷マウンテン(富永敏博)
富永さんは、妻有以前から「かき氷の山」の絵を描いていて、
実際にその絵を見せてもらったけれど、それが実現してしまったのだ。
妻有ならではの、爽やかな話。




BankART妻有(みかんぐみ+BankART1929+その他50作家)
あぁ、これの上半身を抱えてヒースロー空港に降り立ったな、と。




オーストラリアハウス(アレックス・リツカーラ+ルーシー・ブリーチ+リチャード・トーマス)
空家プロジェクトのなかでもロケーションが素晴らしい。
地元の集落の方が受付をしていらして、フラムさんの考えていることはよく分からないけれど友達なんだとか。
作品を通じても、集落との理想的な関係が感じられる。




内なる旅(アンティエ・グメルス)
建築家は、森に憧れるけれど、実際の森に面と向き合える能動的な方法を持たなかったりする。
それに対し、樹々のなかに、確かに異質の空間を現出させていたという意味で、強烈な印象を残す。




還るところ(力五山)
あれだけ小さな集落で、これだけの規模の作品をつくり、
宿泊できるところまで持って行ったのだから、凄いことかも。
ディテールよりもパワーで勝負。






脱皮する家、コロッケハウス(鞍掛純一+日本大学芸術学部彫刻コース有志)
彫刻刀で彫る、アルミ合金を溶射するという単一の方法を徹底することで、つくりだされた2つの作品。
独特のテクスチャーが醸し出す空間が魅了するけれど、
さっぱりとしていながら、意外にシークエンスの長い空間構成も魅力。




ほかにも、

家の記憶(塩田千春)

もうひとつの特異点アントニー・ゴームリー)

鉢&田島征三・絵本と木の実の美術館(田島征三

の3作品は、人気があるのも納得。

妻有田中文男文庫は、天の光、知の光-�(カン・アイラン)の作品とのコラボレーションが絶妙。
Wasted(向井山朋子)は、男性と女性とで見方が違うだろうけど、浮遊感のある空間と迷宮の体験を通して伝わるのは基本的にポジティブな感情なのでは。
世界の真上で(内海昭子)は、前回の作品にも増して、世界をがっしりと掴んでやるという力強さが魅力。かわいいドローイングに騙されてはいけないのだ。
津南のためのインスタレーション-つながり(瀧澤潔)は、ガイドブックのイメージ以上に実物の方が良かった。現場でつくりあげる迫力を感じる。



とりあえず、思いつくまま。3年後もまた行こうと思うクオリティでした。
というか、またつくりたいなという意欲が。


 

  アンダーグラウンド

汐留に建築家の展覧会を見に行った。



林立する超高層ビルの入り口に案内サインが瞬く。



再開発された街区の地下へと降りて行く。



建築家は都市と交通の関係を扱っている。



実は会場には入らなかったので、これ以上詳しくは知らない。

「帝里加」は「デリカ」と読むらしい。
そして、地上には入り口がなく、地下駐車場の車路のすぐ脇からしか入れないらしい。
地上には首都高の高架が飛び交い、隣接する一帯は完全に再開発された場所。
地下に潜っていたおかげで店が存続したシェルターか、それともアンダーグラウンドの気が集中するスポット。
 
 

 

  所沢ビエンナーレ

今日から始まった第1回所沢ビエンナーレを見てきた。
「引込線」という展覧会タイトル通り、西武線の車庫が会場。




柱も梁もアングルとリベットで構成されたトラス構造。
こういう「線」がうるさい会場は美術展に向かないと思いきや、からっと乾いた感じで意外にいい。



作品で印象に残ったのは、まず手塚愛子さんの布の作品。織るのではなく、ほどく。



溝口達也さんの鉄板に地図を穿った作品。映像などと組み合わされている。



窪田美樹さんの作品。素材は、車(ほんものの)と紙。



ほかにも、けっこう有名な作家の方々が参加していて、引込線だけに駅近だし(所沢だけど)、無料。
堪能しました。

  

  コルビュジェの本音

kasta2009-08-26

世界遺産の指定が肩透かしを食ってしまったけれど、国立西洋美術館ではル・コルビュジェ展をやっている。
ぐるぐると螺旋状に無限成長するという美術館モデルなのだが、弟子による新館はそのモデル通りにはなっていない。
おまけに、免震構造が導入され、いまや西洋美術館全体が周囲と縁を切られてバネの上に浮かんでいる。
増築と免震、コルビュジェにどちらが不本意だったか聞いてみたい。

 

  こたつ問題

kasta2009-08-23

建築系ラジオの、こたつ問題というのを聞いた。
妻有の建築系の作家の作品にレベルの低いものがあるという話。

僕は、2006年にフラムさんに町営宿泊施設である松葉荘の敷地内でどうだ?って言われたけど、
10世帯くらいしかない田戸という集落でやりたいって押し切った経緯がある。
廃校跡地というコンセプトを崩したくなかったこともあるし、妻有の最奥の「最前線」でやってみたかった。
そこまで見にきてもらえるような強度の作品にしなきゃ、というプレッシャーも生まれるし、
自分の敷地を見つけるところから始めることが「建築系」を脱する第一歩だと思う。